雑誌広告2025_07
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 米カリフォルニア在住のウェルネスブランド経営者、日系企業の戦略コンサルタント、3人の子を持つ親として、私は日米両国の情報環境の変化を間近で観察。この3つの立場から見えてくる情報社会の現状は、分断の深まりという共通点を持ちながらも、その進行速度や影響の現れ方は両国で異なる様相を示している。 過去30年で、アメリカの政治的分断は深刻化し、保守系(Fox Newsに代表される)とリベラル系メディア(CNNに代表される)、共和党と民主党の激しい対立だけでなく、SNSでのエコーチェンバー現象(自分の考えに合う意見だけに接する状態)により、情報の信頼性自体の揺らぎを感じている人は多いだろう。 この構造的分断はメディアの役割だけでなく、広告の価値、ブランドの姿勢にまで影響を及ぼしている。かつて「中立的な情報提供者」としての役割を担っていたメディアが明確な政治的立場を取り、視世界各地で情報の分断が深まる昨今、メディア環境と広告の役割は、根本的な変容を迫られている。アメリカではトランプ政権を契機に政治的分断がメディアにも反映され、信頼性の危機が顕在化。日本においても、SNSを通じた虚偽情報の拡散や、情報リテラシーの格差が社会問題化しつつある。分断社会において、広告は単なる販促ツールではなく、企業の社会的立場を表明する重要な手段となっている。本稿では、アメリカの事例から日本のメディアや広告環境の未来を考察し、雑誌広告業界が果たすべき新たな社会的役割について提言する。聴者も政治的志向によって棲み分けられるようになった。その結果、広告主は「どの媒体に広告を出すか」という選択自体が、政治的立場の表明とみなされる状況に直面した。トランプ大統領の再任は、この流れをさらに加速させ、広告業界もその影響を強く受けることは想像にかたくない。 一方で、日本のメディアや広告業界は、比較的安定した構造を保ってきたように見えるが、実のところ状況は急速に変化している。SNSや動画メディアを通じて、アメリカの情報や広告トレンドがリアルタイムで日本に届く「影響の時代」に突入した。 兵庫県知事選挙でのSNS上の虚偽情報拡散は、その象徴的事例だ。このように日本でも「アメリカ型の構造」が見られ始めており、情報源の信頼性や検証プロセスの重要性が高まっている。 雑誌広告業界にとって、これらの現象は「遠い国の話」ではなく、すでに自分たちの現場で起き始めていると指摘できる。「誰と組み、どの媒体で、どんなメッセージを発信するのか」という選択は、単なるマーケティング戦略の枠を超え、企業としての社会的立場を示す重要な判断となりつつある。雑誌広告という空間が「社会との信頼関係を築く場」として、再定義される局面に差しかかっている。 アメリカで先行する分断社会における広告の新局面を、3つの事例から検証する。情報プラットフォームの姿勢変更、技術革新がもたらす真実の揺らぎ、企業の価値観表明という角度から、広告主が直面する「信頼」をめぐる新たな課題と可能性を探る。これらの事例は単なる海外事情ではなく、グローバル化するメディア環境において、日本の広告業界にも迫りつつある変化の先行指標として注目に値するだろう。* * *事例❶Metaの第三者による、ファクトチェック・プログラム終了Meta社(Facebook、Instagramなどを運営する世広告と信頼をめぐるメディア環境の未来〜分断するアメリカ、望まれる日本の対応〜国際委員会レポート総合商社や大手コンサルティング会社を経て、2012年にロサンゼルスで「Exa Innovation Studio」を創業。以後、日米欧で新規事業と経営人材育成に携わる。累計60億円超を調達し、複数のスタートアップを創出。現在はウェルネスブランド「Shikohin」や新規事業創出スタジオ「E-Studio」も手がけ、EC(起業家機構)などで次世代育成にも注力。著書に、『ファウンダー思考』(2023年・プレジデント社)がある。信原 威(のぶはら たけし)「分断の時代」を日米の両国から見つめる視点分断社会における広告のリスクと戦略3

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