雑誌広告2025_07
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 第1次政権(2017~2021)から現在の第2次政権(2025~)までの期間を4つに分け、メディア環境、ソーシャルメディア、広告業界への影響を検証する。●メディア環境□「トランプ・バンプ」(トランプ大統領に関連するニュースによって視聴率や購読者数が急増する現象)が発生し、『The New York Times』や『CNN』など大統領が批判した主流メディアが、逆に購読者や視聴者を増やした。一方で、大統領が繰り返し「フェイクニュース」「国民の敵」と攻撃したことで、メディア全体の信頼性は低下。●ソーシャルメディア□大統領がTwitter(現在のX)を駆使して「直接対話」という新たなコミュニケーションモデルを確立。だが公的検証なしの情報発信により、誤情報拡散のリスクも高まった。●広告業界□デジタル広告、とくにターゲティング広告への移行が加速し、社会の分断に伴い、企業は社会課題への明確な立場表明を行うようになった。「価値観に基づくマイクロターゲティング」が台頭し、広告の基本設計に変革がもたらされた。●メディア環境□退任により「トランプ・バンプ」効果が消失し、主要メディアの視聴率や購読者数が大幅に低下。その結果、多くのメディアは財政難に直面した。●ソーシャルメディア□トランプ支持者による連邦議会議事堂襲撃事件後、大手プラットフォームがトランプ氏のアカウントを停止。これが「プラットフォームの責任」と「表現の自由」をめぐる議論を引き起こした。トランプ氏は独自プラットフォーム「Truth Social」を立ち上げ、大統領在任期間ほどではないものの引き続き影響力を持つことに成功。●広告業界□政治的緊張の緩和に伴い、政治広告が減少。ブランドセーフティへの関心が高まり、論争的コンテンツへの広告出稿を避ける傾向に。同時に特定の社会課題で界最大のソーシャルメディア企業)は2025年1月、2016年から導入していた第三者機関による投稿内容の事実確認プログラムを「表現の自由を最大限に尊重する」という理由で廃止。この決定に対し、偽情報対策活動家からは懸念の声が、保守派からは「検閲の終了」として評価する声が上がり、ファクトチェックの必要性自体が政治的立場で分かれる状況となった。この方針転換は、企業が政治的圧力に応じて自社方針を変更する際のリスクと影響の大きさを示している。広告主にとっては、「どのような情報環境の中で自社広告を表示するか」という判断がますます重要となり、虚偽情報が多く流通する場での広告表示は、ブランド価値を損なうリスクがあるという新たなジレンマに直面している。* * *事例❷AIコンテンツとフェイクニュース AIコンテンツの普及は、情報の信頼性問題をさらに複雑化させている。虚偽情報は真実より人々のネガティブな感情を刺激して早く拡散し、より多くの人々に到達する傾向がある。背景には「他者より先に情報を得て共有したい欲求」と「確証バイアス(自分の既存の信念を支持する情報を優先的に受け入れる傾向)」が相まって、誤情報拡散を加速させる心理的要因が存在している。2024年の大統領選ではAI生成の偽動画が数百万回再生され、多くの人々がそれを真実として受け入れてしまうという事態が起こった。ディープフェイク技術(AIで人物の顔や声を別の映像に合成する技術)の進化により、「見ることは信じること」という信頼基準が根底から揺らぎ、視覚情報の真偽判断が困難になっている。 広告業界もAI活用の効率的コンテンツ生成を進める一方で、「誤解を招く広告」や「ステレオタイプを強化する表現」への懸念が高まっている。トランプ政権下での規制緩和方針は「イノベーション促進」を掲げつつも、メディアの信頼性や広告環境への影響という新たな課題を生み出している。* * *事例❸社会的スタンスをとるブランドの成否 政治的、社会的分断が深まるなか、ブランドが社会的スタンス(Social Stance)を明確にする動きが顕著だ。これは単なるマーケティング戦略の変化ではなく、企業の社会的役割の再定義を意味し、特定の立場表明による顧客層喪失の「広告リスク」と、価値観共有による信頼構築という利点のバランスが問われていると言っていいだろう。以下にその成功例を紹介する。❶ Patagonia─環境保護への姿勢 自然保護を企業ミッションに掲げるアウトドアブランドPatagoniaは、環境保護への強い姿勢を一貫して表明。注目されたのは、トランプ政権の指定保護地域縮小政策に対し「我々の地を盗んだ」と公然と批判したことだ。リスクはあったものの、環境意識の高い消費者の強い支持を獲得。* * *❷LEGO─多様性と包括性の支援 子供の発達と教育に関わる成功事例分断を加速 ─トランプ効果─メディア、広告業界の構造変化第1次政権時代(2016〜2020)退任後の2年間(2021〜2022)4

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