雑誌広告2025_07
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る点である。①変化は〝速く〟届き、〝深く〟影響するかつて、アメリカの広告やメディア動向は数年遅れで日本に届いていたが、今やSNSやYouTubeを通じ、ほぼリアルタイムで情報が波及する時代となった。さらに世界各地の事例や知見へのアクセスが容易になったことで、日本の広告業界も国際的な潮流を敏感に感じ取っている。 ただし、制度や文化的背景に根差した深層部分の変化には、依然として時間差が存在する。「表面は速く、根はゆっくり」という変化のパターンが生じているのだ。例えば、ブランドアクティビズム(企業が社会問題について明確な立場を表明する行為)などは表面的には日本でも話題になるものの、実際の広告実践においては、より慎重な姿勢が維持されている。 この「二層構造」への変化は、日本の広告業界に独自の課題をもたらすだろう。表層的なトレンドだけを取り入れ、その背景にある価値観や文化的文脈を十分に理解せずに実行することは、しばしば違和感のあるコミュニケーションを生み出す原因となる。さらに言えば、グローバルブランドと協働する日本の広告代理店は、海外本社の方針と日本市場の特性の間でバランスを取る難しさに直面することになる。②国内でも起きている情報の信頼性危機 先に紹介した2024年11月の兵庫県知事選挙の例では、メディアの役割や情報の信頼性が改めて問われた。 この事例は、情報リテラシーの格差も浮き彫りに。情報リテラシーの高い層は複数の情報源を確認して判断する一方で、そうでない層はSNS上の情報をそのまま受け入れる傾向があり、年齢、教育レベル、居住地域によっても差が見られた。この「情報格差」は、社会的分断の新たな軸となる可能性を示している。③予測される主な変化と、望まれる対応策日本においても、「フェイ企業として、多様性と包括性を重視し「Everyone is Awe some(みんな素晴らしい)」セットを発売。保守層からの批判にも「すべての子供が自分らしく成長できる世界」という理念を堅持した。* * *❸Dove─「Reverse Selfie」キャンペーンUnilever社のDoveブランドは、若年層の自己肯定感向上を目的とした「Reverse Selfie」キャンペーンで、非現実的な美の基準に挑戦。デジタル加工された自撮りを逆再生することで自然な美しさを称え、化粧品ブランドを超えた社会運動として認知を獲得した。* * * これらの事例が示すように、分断社会においてブランドが社会的立場を明確にする動きは、単なるマーケティング戦略の変化ではなく、企業の社会的役割そのものの変容を表している。成功事例に共通するのは、短期的な利益よりも長期的な価値観の一貫性を重視し、コアターゲットとの信頼関係構築に焦点を当てていは積極的な立場表明を続けるというバランスが求められた。●メディア環境□大統領選出馬表明により再びメディアの関心が高まったが、トランプ陣営は従来以上にメディアへの敵対姿勢を強化。批判的な記者の排除など、報道の自由に対する懸念が高まった。●ソーシャルメディア□主要プラットフォームへの復帰を果たし、複数のプラットフォームを活用する「マルチプラットフォーム戦略」を展開。ポッドキャストやライブストリーミングの活用で、従来届かなかった層へのリーチを実現。また、AI生成コンテンツの台頭により、選挙に関連した誤解を招く情報の拡散も加速した。●広告業界□新興デジタルプラットフォームの影響力が増大し、以前は政治的に敏感なコンテンツとの関わりを避けていた大手企業の姿勢が変化。「広告出稿先の選択」そのものが、企業の社会的立場表明として受け止められる傾向が強まった。●メディア環境□保守系メディア、とくに『Fox News』は政権との近接性を背景に視聴率を維持。一方、リベラル系メディアとの緊張は高まり、記者の排除や「偏向報道」を理由とした訴訟など、報道への圧力が増大している。リベラル系メディアは「政権批判」と「報道アクセス確保」のジレンマに直面している。●ソーシャルメディア□大統領令により、政府がSNSに特定コンテンツの削除を求めることを制限。政権は「政治的中立性」の維持を求め、法的措置も示唆。一部プラットフォームではファクトチェック緩和やアルゴリズム調整が進み、誤情報拡散の新たな懸念が生じている。●広告業界□経済政策の不確実性から、企業は広告費に対して慎重に。効率的なマーケティング手法として、ターゲティング広告やデジタルプラットフォームへの集中が進み、ブランドポジションも「スタンス明確化」と「政治的中立」の二極化が進行している。日本で予測される変化と望まれる対応再出馬表明から当選まで(2023〜2024)第2次政権(2025〜現在)5

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