雑誌広告2025_05
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CASE 大七酒造は、福島県二本松市で1752年に創業しました。以来270年以上、伝統的かつ正統な醸造法「生酛(きもと)造り」で日本酒を造り続けています。この手法は自然の微生物の生存競争を利用しながら、熟練の技により通常の3倍もの時間をかけ、米をじっくり発酵、熟成させていくものです。効率や合理性を求めた近代的な技術の普及で、一時はこの生酛造りを続けている酒蔵は日本でも数えるほどになりましたが、近年ようやく見直されてきました。大七は、現在主流の製法で造られる日本酒とは造り方はもちろん、商品のコンセプト、価値観がまったく異なります。ですから単に品質の高さや味のよさをうたうビジュアル重視の広告では本当に伝えたいことは伝わりません。広告を出す際は、商品の造り方やその背景まで理解してもらえるよう、記事広告を中心に展開してきました。 「第11回(2025年)日経BP Marketing Awards」のグランプリを受賞した「哲学でこそ飯を食え」の広告企画は日経BPさんからご提案いただきました。『日経ビジネス電子版』と『日経クロストレンド』に掲載する5回シリーズの読みものです。この企画に惹かれたのは、「日本酒造りのさらに奥にある大七酒造の思想や哲学から物語にし、ビジネスにおいて様々な問題意識を持っている読者が、業種は違っても自分の問題と重ねて読んでもらえるような切り口にしませんか」と提案されたことでした。これまでの記事広告よりさらに、大七の価値観をわかりやすく発信できると思ったのです。 広告を出す意義は、商品への理解や、私たちの日本酒造りへの姿勢に共感を持っていただくことです。さらにいえば、読者の価値観を転換するきっかけにと考えてのことです。例えば、伝統的な生酛造りの日本酒はこんな美味しさです、と伝えるだけでなく、手間暇かけたこの美味しさこそが本来の日本酒の魅力ではないかと。大七の広告に接したことで考え方が変わったり、新しい気付きにつながることを期待しているのです。 これまでは日本酒造りへのこだわりなど、自分plus文/中木 純2大七酒造株式会社代表取締役社長十代目当主太田 英晴氏たちが自信を持っていることを伝えさえすれば、記事を読む方に理解してもらえるものと思ってきました。しかし、読む側からすると、どの広告も大差なく、違いが伝わりづらいのではないかと気付いたのです。そこで今回の広告「哲学でこそ飯を食え」に関しては、読者が大七のどんなところに興味を持ち、何を面白いと感じるのかなどの内容は客観的な目を持つ編集部に一任し、こちらからはあえてリクエストを出しませんでした。 広告が掲載されると、社内外から大きな反響がありました。まず社内では、「改めて誇りを感じた」、「営業の追い風になる」といった声が聞かれました。とくに酒造りの現場などお客様と会う機会が少ない部署では、今回のアワードでグランプリを獲ったことで自分たちの仕事に脚光が当たり、評価されたことが大きな励みになったようです。 社外では、お客様から記事を見たとお声をかけていただいたり、お手紙をくださった方もいます。また、この記事がきっかけでNHKの国際放送の取材を受け、放送を見た海外の方からの問い合わせのメールもいただきました。さらに、出版社からのオファーもありました。商品認知にとどまらず、大七の哲学に共感をいただけたと嬉しく思っています。 時代の流れとともに酒造りが変わっていくなかにあって、大七は時流や大勢とは異なる思考法、価値観で酒造りに取り組み、向き合ってきました。今回の反響は大七のスタッフ一同にとって、改めて大きな自信につながりました。31酒造りの「哲学」を読者と共感する最前線最前線最前線最前線最前線+++++

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